研究の背景
強力なフグ毒テトロドトキシンを体内に持つオオツノヒラムシは、様々な海洋生物が毒 を蓄積するための重要な「毒の供給源」です。本研究では、水温の変化がオオツノヒラムシ の繁殖や毒の量にどのような影響を与えるかを調べました。
研究成果
卵巣でのテトロドトキシン(フグ毒)を保有することで知られるオオツノヒラムシの繁殖や毒の量が、水温の変化によってどのように変わるかを詳しく調べました。
オオツノヒラムシの産卵活動には一定のリズムがあることが明らかになりました(図1)。産卵はすべて夜間に行われ、特に満月・新月付近の「大潮」の際、より活発になる傾向が見られました。これは、ふ化した幼生が潮流に乗って広範囲に分散するための生存戦略だと考えられます。
また、水温がふ化に与える影響を調べたところ、顕著な違いが確認されました。水温が16°C 以上ではすべての卵板がふ化しましたが、14°C では20%にまで低下し、12°C では全くふ化しませんでした(図2)。この結果から、彼らが卵から生まれて生き残るためには、約14°C という「限界温度」が存在することが示されています。さらに、卵に含まれる毒の量についても、水温が高いほど多いことが明らかとなりました。20°C の温かい水温で産み出された卵は、12°C の場合と比べてTTX の濃度が有意に高いことが示されました。
これらの発見は、地球温暖化が水産物の食の安全に及ぼすリスクを浮き彫りにしています。今後、海水温の上昇によってオオツノヒラムシの生息域が北へと広がり、個体数が増加する可能性があります。その結果、毒の供給源となるフグや貝類などの毒化がこれまで以上に進み、食品での危険性がこれまで以上に高まることが懸念されます。

図1: オオツノヒラムシの産卵数および体重に及ぼす水温の影響
論文情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文タイトル | Effects of water temperature on the reproductive ecology and toxin dynamics of the toxic flatworm Planocera multitentaculata |
| 著者 | Hikaru Oyama, Taiki Okabe, Rei Suo, Masaaki Ito, Ryo Yonezawa, Shouzo Ogiso, Hajime Matsubara, Nobuo Suzuki, Shuichi Asakawa, Shiro Itoi |
| 掲載誌 | Fisheries Science |
| 発表日 | 2026年2月25日(オンライン版) |
| DOI | 10.1007/s12562-026-01969-8 |
お問い合わせ
増殖環境学研究室 糸井 史朗(いとい しろう)