研究の背景
夜光虫は、世界中の熱帯〜温帯、さらに沿岸の内湾・湾口で頻繁に赤潮を形成することが知られています。これまでの研究により、夜光虫は細胞内に極めて高濃度なアンモニアやリンを再生・蓄積していることが知られています。しかし、夜光虫がプランクトン生態系に対して有害(悪い奴)なのか、あるいは有用(良い奴)なのかどうかは不明のままでした。
実験方法
2002年1月〜2006年12月の期間、相模湾沿岸(江ノ島沖)に設置された1定点でほぼ2週間に1度の頻度で現場観測・試料の採集を行い、夜光虫の出現密度、細胞サイズ、細胞内栄養塩類(アンモニア、リン酸、亜硝酸・硝酸態窒素)含有量・濃度の季節変動を調べました。さらにそれらを用いて、アンモニア・リン排泄速度を測定する室内実験も行いました。
図1: 顕微鏡下で観察した夜光虫。沿岸域で赤潮を形成する大型のプランクトンである。
研究成果
相模湾沿岸での長期観測の結果、夜光虫は海水中よりも数十〜百万倍(平均数百〜数万倍)濃度が高い栄養塩類を細胞内に再生・蓄積していることが明らかになりました。さらに夜光虫の細胞内栄養塩類含有量は現場海水中に潜在的に存在する栄養塩類プールの**最大40〜83%**を占め、珪藻 T. rotula は夜光虫の細胞内排泄物(栄養塩類)を与えることで増殖しました。
夜光虫の出現密度と最大栄養塩類排泄速度から求めた窒素・リン供給量は、植物プランクトンの**窒素要求量の平均35%、リン要求量の平均55%**を満たすと推定されました。特に夜光虫が多く出現し、かつ現場海水中の栄養塩類濃度が低かった4〜7月には、窒素要求量の51〜85%、リン要求量の81〜136%を満たすことが示されました。
図2: 相模湾沿岸域における夜光虫の栄養塩類再生と海洋プランクトン生態系における役割の概念図。夜光虫は栄養塩類の再生者として植物プランクトンの増殖に貢献している。
今後の展開
夜光虫は植物プランクトンを摂食して増殖し、体内に栄養塩類を蓄積しています。この栄養塩類を利用して植物プランクトンが再び増殖できることが示されました。つまり、夜光虫はプランクトン生態系内において栄養塩類の再生者としての「良い」役割を果たしていることが明らかとなりました。
論文情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文タイトル | Seasonal variability of the red tide-forming heterotrophic dinoflagellate Noctiluca scintillans in the neritic area of Sagami Bay, Japan: its role in the nutrient-environment and aquatic ecosystem |
| 著者 | Koichi Ara |
| 掲載誌 | Plankton and Benthos Research 8(1), 9-30 |
| 発表日 | 2013年3月15日 |
| DOI | 10.3800/pbr.8.9 |
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海洋環境学研究室 荒 功一(あら こういち)